委員長のご挨拶

新しい生活様式の中でのコミュニケーション技術

2020年度ヒューマンコミュニケーショングループ運営委員長 金子 寛彦 (東京工業大学)

 

 2020年という年は,コロナウイルスの広がりによって,ヒトの歴史において特別な年になってしまいました.現在(2020年6月時点)でもまだ感染者が日々報告されていますが,人々の行動範囲は大きく制限され,行動様式も大きく変化しました.その中で大きな役割を果たしたものの一つが,コミュニケーション技術です.職場での会議や大学や高校の授業はもちろん,仲間内の飲み会や接客を伴う夜のお店でも,複数の人が同時に画像と音声を共有できる遠隔コミュニケーションシステムが利用されています.これまでも,こうしたシステムはある程度使われていたわけですが,今回の出来事により,これ以上ありえない規模での社会実験,というか強制的な社会実装が突如始まったため,これまでとは比較にならない数の人々が遠隔システムを使うようになり,その結果,現在のシステムの短所や長所が明らかになりました.セキュリティや送受信する情報の質の問題が再認識されましたし,参加人数やコミュニケーションの目的によって,適切なインターフェースを吟味する必要もありそうです.また一方で,遠隔システムが予想以上に便利であることも認識されました.会議や学会などで使えることはある程度予想できましたが,飲み会でも意外と盛り上がれることは個人的には予想外でした.将来,コロナや他の感染症の脅威がなくなったとしても,遠隔システムを継続して利用する状況が必ずあると思われます.

 

 ヒトは昔からコミュニケーション技術の発展に大きな力を注いでいます.狼煙(のろし)や太鼓などの原始的な技術から始まり,手紙,電話,無線,携帯電話,ポケベル,メール,スマホ,ライン(ここから固有名詞ですが),スカイプ,フェイスブック,Zoomなどどんどん新しいものができています.特に最近は,変化のスピードがとても速く適応するのが大変です.先日,職場をすでに退職された70歳を過ぎた方から,大学院に入りたいという連絡を「手紙」でいただきましたし,学生からは,メールは面倒なので「ライン」で連絡してもいいかとの問い合わせもあります.いずれにしても,ヒトにとって,コミュニケーションは重要で,なくてはならないものです.逆に言えば,今回のコロナによって,行動が大きく制限されるような状況においても,コミュニーションを十分に取れるような環境の構築ができれば,ヒトの活動のかなりの部分は維持でき,暮らしが楽しく豊かになると思われます.前置きが長くなりましたが,そのようなヒトのコミュニケーションに関連する研究を行う者が集まっているのがHCG(ヒューマンコミュニケーショングループ)です.

 

 HCGは,4つの第一種研究会(ヒューマンコミュニケーション基礎,ヒューマン情報処理,メディアエクスペリエンス・バーチャル環境基礎,福祉情報工学),5つの第二種研究会(発達障害支援,ヒューマンプローブ,情報の認知と行動,魅力工学,コミック工学),2つの第三種研究会(ヴァーバル・ノンヴァーバル・コミュニケーション,リアルタイムコミュニケーション言語)と,多くの研究会から構成されており,ヒトに関連する研究を,工学のみならず,心理学,社会学,言語学,医学,教育学,芸術など様々な観点から,小回りの利く方法で展開しています.通常はそれぞれ研究会を開催していますが,年に1度,HCGメンバーが一堂に会するHCGシンポジウムを開催して(今年は遠隔です!),分野の異なる研究者の交流を行なっています.このような活動を通して,今後,ますます重要となり,多様化すると思われるヒューマンコミュニケーション技術の発展を目指しています.委員長といたしましても,委員会のメンバーと協力し,HCGの活動を盛り上げていきたいと思いますので,皆様もご協力のほどよろしくお願いいたします.